記 事

「ミラクルジャンプ」にまた、期待の新人

こちらのコンテンツは、STUDIOVOICEからの許諾を得ての転載となります。
レイチェル・ダイアル 皿池篤志

『このマンガがすごい!2013』(宝島社)オトコ編第1位の『テラフォーマーズ』や発売後即品切れ・重版となった『君は淫らな僕の女王』など、ヒット作を量産している「ミラクルジャンプ」(集英社)に期待の新人が登場した。『レイチェル・ダイアル』の皿池篤志である。

舞台は人間に代わって機械たちが殺し合った「代理戦争」終結後の空想近未来。かつて世界有数の工業都市であったチェスターバレーでは、代理戦争時の負の遺産である自律思考型戦争兵器”ギガンテス”がいまだ稼働し続け、人の侵入を拒み続けている。しかし人間はそこに残る大量の金属資源を捨て置くことができず、極地使用型工業アンドロイドを作り回収にあたらせていた。

財閥の令嬢レイチェルは、幼いながら金属を回収し終えると溶鉱炉で回収した金属とともに還元されてしまう工業アンドロイドを不憫に思い、これらを助けようと試みる。彼女が単身チェスターバレーに飛行機で立ち入るところから物語は始まる。主人公レイチェルの行動力は幼い頃から抜群。周囲を巻き込みひっかき回すが、周囲の心配などどこ吹く風。父親は娘が屋敷からいなくなるたび何度も肝を冷やしている。

世界設定もユニークだ。ロボットを作る技術力を持ちながら、プラスチックのような合成樹脂は発明されていない。木や石やガラス、金属など年月を経ても汚くならない素材で構成される世界。産業革命時代のような雰囲気で、近未来にもかかわらずどこか懐かしさすら感じさせる。「レトロフューチャーSF」との謳い文句も納得だ。

レイチェルのチェスターバレーでの冒険に付き合わされるのは、アンドロイドのコンビ、マックスとアレックスだ。「あぶない刑事」のタカとユウジコンビのような不良アンドロイドコンビ。レイチェルとの掛け合いは、兄2人妹1人の兄妹のようでもあるが、たまに主人と従者の関係が混じる。また、お嬢様の行動というものは“風の谷のナウシカ嬢”よろしく、強い魅力を持ち得る。

マックスとアレックスはチェスターバレーで、もともともプログラミングにしたがって金属回収(口から食べて体内に貯蔵する)をしていたが、レイチェルによってその行動を禁止されてしまう。しかし、この不良アンドロイドコンビはレイチェルの命令に逆らい、隙あらば金属を回収し(食べ)ようとする。ロボットは人間の命令に逆らえないので2人のAI(人工知能)は混乱してしまうのだが、この葛藤の機微が上手く描かれている。ロボット系のSF作品は、人間やロボットの本質やその差異としての「魂」や「ココロ」をあぶり出すものなのだ。

ところで、ロボット工学三原則をご存知だろうか? ロボット工学三原則とは、アイザック・アシモフのSF小説において、ロボットが従うべきとして示された原則で、人間への安全性・命令への服従・自己防衛を目的とする3つの原則から成る。

第一条 ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
第二条 ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。
第三条 ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己をまもらなければならない。

高度に設計・製造されたロボットは人間以上に人間らしい容姿で、人間らしい行動をとる。感情やココロの模倣もまた然り。言い換えるなら「ロボット工学三原則」と矛盾する場面に遭遇することがあるのだ。第1話では、アンドロイドは「人間を犠牲にするか、アンドロイド自身を犠牲にするか」という問題に突き当たることになる。アンドロイドのAIは原則に従い後者を選択するが、幼いレイチェルは納得できずその選択を却下する。それでも、アンドロイドは自らの意思で自分たちを犠牲にするほうを選択する。だが、もしレイチェルが命の危険に晒され、犯人を殺さなければ助けられない状況に陥ったとき、この心優しきアンドロイドたちはどのような行動をとるのだろうか?

そのほかにも、ロボット工学三原則に反するロボット=ギガンテスは、一体誰が何のために作り出したのかなど、いくつかの謎や疑問がこれからの物語の展開を多層化していくうえでのキーとなるはずだ。さらには、ロボット「ココロ」の在り方をいかに描ききれるか、それがこの作品の評価を高めていくうえでの分水嶺となるだろう。

ohta
文=凹田カズナリ
街の文化を支える書店チェーンで勤務。平和台→早稲田→五反田店でコミック担当を歴任。現場で仕入れた知識を広めるべくマンガナイトにも参画。2011年~「このマンガがすごい!」「このマンガを読め」にもアンケートを寄稿。日本橋ヨヲコ、鶴田謙二、長田悠幸、阿部共実、きくち正太、山田穣、谷川史子、堀井貴介、沙村広明、松本藍、篠房六郎(敬称略・順不同)を筆頭にオールジャンル好きな漫画多数。

ALICEY の一覧

  • 『おいしそう!再現したくなるグルメマンガ3選』を執筆
  • 『映画も大好評! 「orange」で大人女子が泣ける理由』を執筆
  • 『斎藤工に妄想を読まれる!? 映画「高台家の人々」をマンガで予習』にて執筆
  • 『山Pたちがゴキブリ退治?! 映画「テラフォーマーズ」をマンガで予習!』にて執筆
  • 『春、「出会い」と「別れ」を描いたマンガ3選』にて、選書と執筆
  • d's JOURNAL の一覧

  • 「d’s JOURNAL」連載第4回公開
  • 「d’s JOURNAL」連載第3回公開
  • 「d’s JOURNAL」連載第2回公開
  • d’s JOURNALにて記事連載スタート
  • DOTPLACE の一覧

  • DOTPLACE連載「未明のマンガ論―マンガは拡張する3.0」第4回 後編
  • DOTPLACE連載「未明のマンガ論―マンガは拡張する3.0」第4回 前編
  • DOTPLACE連載「未明のマンガ論―マンガは拡張する3.0」第3回
  • DOTPLACEにてシリーズ連載「未明のマンガ論―マンガは拡張する3.0」第1回公開
  • 連載 「マンガは拡張する[対話編+]第6回 島田英二郎×山内康裕:「マンガ」は拡張するのか?」
  • DOTPLACE「マンガは拡張する[対話編+]第5回「田中圭一×柿崎俊道×山内康裕:兼業マンガ家・兼業編集者 」が公開
  • 野田彩子×豊田夢太郎×山内康裕:マンガは拡張する[対話編+]
  • DOTPLACE『菊池健×椙原誠×山内康裕:Webマンガと市場構造[前編]「電子書籍の普及でマンガ全体の売上は上がっている。その一方で……」』が公開
  • DOTPLACE『北本かおり×ドミニク・チェン×山内康裕:二次創作とライセンス[後編]「海賊版を禁止して広がるのを止めてしまうのか、『いいから出しちゃえ』って進んだ人が結局最後に勝つのか。」』が公開
  • DOTPLACE『北本かおり×ドミニク・チェン×山内康裕:二次創作とライセンス[前編]「ただコンテンツを眺めるだけじゃなく、自由に使うことによって文化が成長する。」』が公開
  • マンガは拡張する の一覧

  • DOTPLACE連載「未明のマンガ論―マンガは拡張する3.0」第4回 後編
  • DOTPLACE連載「未明のマンガ論―マンガは拡張する3.0」第4回 前編
  • DOTPLACE連載「未明のマンガ論―マンガは拡張する3.0」第3回
  • DOTPLACEにてシリーズ連載「未明のマンガ論―マンガは拡張する3.0」第1回公開
  • 連載 「マンガは拡張する[対話編+]第6回 島田英二郎×山内康裕:「マンガ」は拡張するのか?」
  • DOTPLACE「マンガは拡張する[対話編+]第5回「田中圭一×柿崎俊道×山内康裕:兼業マンガ家・兼業編集者 」が公開
  • 野田彩子×豊田夢太郎×山内康裕:マンガは拡張する[対話編+]
  • DOTPLACE『菊池健×椙原誠×山内康裕:Webマンガと市場構造[前編]「電子書籍の普及でマンガ全体の売上は上がっている。その一方で……」』が公開
  • DOTPLACE『北本かおり×ドミニク・チェン×山内康裕:二次創作とライセンス[後編]「海賊版を禁止して広がるのを止めてしまうのか、『いいから出しちゃえ』って進んだ人が結局最後に勝つのか。」』が公開
  • DOTPLACE『北本かおり×ドミニク・チェン×山内康裕:二次創作とライセンス[前編]「ただコンテンツを眺めるだけじゃなく、自由に使うことによって文化が成長する。」』が公開
  • greenz.jp の一覧

  • 本を通して生まれる、新たなコミュニケーションとは? 選書のプロと一緒に、これからの本について考えてみよう(後編)
  • 選書することに、どんな意味があるの? 選書のプロと一緒に考える“本を通じた場所づくり”のヒントとは(前編)
  • マンガを使った新しいマネタイズとは? 内沼晋太郎さんと語る、マンガの未来(後編)
  • マンガの新たな楽しみ方とは? 内沼晋太郎さんと語る、マンガの未来(前編)
  • マンガナイト×greenz.jpの新連載「マンガ×ソーシャルデザイン」開始!
  • NumberWeb の一覧

  • 「NumberWeb」コラム掲載
  • PingMag の一覧

  • マンガナイトセレクト ジャケ買いマンガ5選~日本マンガのブックデザイン~
  • マンガナイトセレクト お仕事マンガ5選~マンガでわかる日本のお仕事事情~
  • マンガを持ってアキバに出よう 脱出ゲーム×マンガの可能性
  • マンガナイトセレクト お花見マンガ5選:「花」から感じる日本の美意識
  • 新たなマンガの生まれる場所
  • BEST of 2013 #4:マンガナイトセレクトの海外にも紹介したい漫画10選
  • 日本人よ、もっとマンガを知れ:ガイマン賞に迫る
  • マンガの未来と過去をつなぐ場所「立川まんがぱーく」
  • マンガ→アートの原点を探る旅
  • 最新技術で楽しむ「藤子・F・不二雄」の世界
  • 日本発 〇〇マンガ5選 の一覧

  • マンガナイトセレクト ジャケ買いマンガ5選~日本マンガのブックデザイン~
  • マンガナイトセレクト お仕事マンガ5選~マンガでわかる日本のお仕事事情~
  • マンガナイトセレクト お花見マンガ5選:「花」から感じる日本の美意識
  • BEST of 2013 #4:マンガナイトセレクトの海外にも紹介したい漫画10選
  • ROOMIE の一覧

  • 「ROOMIE」マンガ紹介連載 vol.6公開
  • 「ROOMIE」マンガ紹介連載 vol.5公開
  • 「ROOMIE」マンガ紹介連載 vol.4公開
  • 「ROOMIE」マンガ紹介連載 vol.3公開
  • 「ROOMIE」マンガ紹介連載 vol.2公開
  • STUDIO VOICE の一覧

  • 『聲の形』(大今良時)……正解を模索する曖昧な往来
  • 『文豪ストレイドックス』(朝霧カフカ 春河35)……原典へと誘う“キャラクター化”の効果
  • 『王様達のヴァイキング』(さだやす)……起業家、投資家、ハッカー。現実に肉薄する描写
  • 『ケンガイ』(大瑛ユキオ)……SNS以降、人間関係の着地点はどこにあるのか
  • 『放課後さいころ倶楽部』(中道裕大)……熱気を帯びつつあるアナログゲーム界隈
  • 『ドライブご飯SAグルメ日記』(末広有行)……サービスエリアという「一期一会」の楽しみ
  • 『flat』(青桐ナツ)……“オープン・パーソン”の平熱感
  • 『さよならソルシエ』(穂積)……「与えられなかったもの」の処世
  • 『Baby,ココロのママに!』(奥山ぷく)……「虚親化」という、現代の新たな現象をめぐって
  • 『限界集落温泉』(鈴木みそ)……オリンピックと併走する日本の現実
  • その他 の一覧

  • モーションコミックが魅せる「ULTRAMAN」のかっこよさ
  • 『オチビサン』の色彩の魅力がそのまま映像に マンガの世界を拡張する
  • 作品レビュー“『聖闘士星矢』の忘れられない名勝負:後編 不可欠な仲間の絆”を寄稿
  • 作品レビュー“『聖闘士星矢』の忘れられない名勝負:前編「少年マンガらしさ」の体現”を寄稿
  • マンガ論争11に寄稿しました
  • 【アニメ!アニメ!】話題の有名人もゲスト声優に、「ONE PIECE」劇場3作品の意外な裏側
  • 【アニメ!アニメ!】国民的代表作『ONE PIECE』はデータで見てもスゴかった!
  • まんがStyle の一覧

  • 新雑誌「ヒバナ」ついに公式Webサイトが公開注目作品の魅力を編集部に聞いてみた!
  • 「わたしたちの」岡崎京子展 今日マチ子ギャラリートークレポート
  • 今どうして三原順なのか「没後20年展 三原順復活祭」に見る彼女の思索の深さ ファンの熱
  • ついにオープン、『ONE PIECE』初の大型テーマパーク 「東京ワンピースタワー」フォトレポート!
  • 展示取材記事「マンガ表現の可能性を実感 -聲の形-完結記念展 大今良時原画展」
  • 炸裂した『弱虫ペダル』作者の自転車愛、キャラ愛、ファン愛 渡辺航トークイベント「弱ペダナイト2」レポート
  • セリフは0、漫画の演出力を競う!サイレントマンガオーディション授賞式レポート
  • イベント取材記事『強い女の子は好きですか? もやしもん×純潔のマリア原画展』
  • マンガを育てるのは批評?キュレーション?中野発トークイベント「漫画家の登竜門を再考する(2)」
  • CLAMPのデビュー25周年!東京ソラマチ『カードキャプターさくら原画展』
  • グルマン給仕長のおかわりマンガ の一覧

  • 夏だ!祭りだ!お好み焼きマンガ3選
  • 消費税増税に負けるな! 家計も助かる「節約料理マンガ」3選
  • GW直前!旅がもっと楽しくなる「駅弁マンガ」3選
  • 甘党男子に捧ぐ、別腹スイーツマンガ3選
  • 早起きしてでも食べたい朝食漫画3選
  • まんが王国ラボ の一覧

  • まんが王国ラボにて『山本耳かき店』(安倍夜郎)レビューを執筆
  • まんが王国ラボにて『彼女のやりかた』(田所コウ)他レビューを執筆
  • まんが王国ラボにて『アダムとイブの楽園追放されたけど…』(宮崎夏次系)レビューを執筆
  • まんが王国ラボにて『金魚屋古書店』(芳崎せいむ)レビューを執筆
  • まんが王国ラボにて『バベルハイムの商人』(古海鐘一)レビューを執筆
  • まんが王国ラボにて『着たい服がある』(常喜寝太郎)レビューを執筆
  • まんが王国ラボにて『いちばんいいスカート』『アドレスどちら』ほか谷和野作品レビューを執筆
  • まんが王国ラボにて『サヨナラコウシエン』(天久聖一)レビューを執筆
  • まんが王国ラボにて『エロイカより愛をこめて』(青池保子)レビューを執筆
  • まんが王国ラボにて『妻に恋する66の方法』(福満しげゆき)ほかレビュー記事を執筆
  • クリスクぷらす の一覧

  • クリスクぷらす にて「モブキャラなんてこの世に誰もいない『ぷらせぼくらぶ』」を執筆
  • 「通信制高校ってどんなところ? 『中卒労働者(ワーカー)から始める高校生活』」を執筆
  • シミルボン の一覧

  • シミルボンにて『自虐の詩』(業田良家)レビューを執筆
  • シミルボンにて『珈琲いかがでしょう』(コナリミサト)レビューを執筆
  • シミルボンにて『私は主人公』(桐島いつみ)レビューを執筆
  • シミルボンにて『特務戦隊シャインズマン』(橘皆無)レビューを執筆
  • シミルボンにて『どうにもこうにも』(日下直子)レビューを執筆
  • シミルボンにて『地球へ…』(竹宮惠子)レビューを執筆
  • シミルボンにて『滝田ゆう落語劇場』レビューを執筆
  • シミルボンにて『ツンドラブルーアイス』レビューを執筆
  • シミルボンにて『おのぼり物語』レビューを執筆
  • シミルボンにて『いつか咲く花』レビューを執筆
  • マンガ・アニメ3.0 の一覧

  • マンガ・アニメ3.0「マンガミライハッカソン」プレトーク「マンガのシンギュラリティ」レポート
  • マンガ・アニメ3.0「『グルメマンガ』の世界――“豊食”と“飽食”の日本を記録したメディア」
  • マンガ・アニメ3.0 「拡大する「2.5次元」の世界」
  • マンガ・アニメ3.0「マンガを「学び」のツールに ――フランスにおけるマンガ事情レポート2019」
  • マンガ新聞 の一覧

  • マンガ新聞にて『鬼滅の刃』(吾峠呼世晴)レビューを執筆
  • マンガ新聞にて『さんかく窓の外側は夜』(ヤマシタトモコ)レビューを執筆
  • マンガ新聞にて『スケッチー』(マキヒロチ)レビューを執筆
  • マンガ新聞にて『恋と国会』(西炯子)レビューを執筆
  • マンガ新聞にて『PSYCHO-PASS』レビューを執筆
  • マンガ新聞にて『鬼滅の刃』レビューを執筆
  • マンガ新聞にて『ハヴ・ア・グレイト・サンデー』(オノ・ナツメ)レビューを執筆
  • マンガ新聞にて『江戸時代の経済入門!その弐』(アイタロー)レビューを執筆
  • マンガ新聞にて『ハイスクール・オーラバスター アーケイディア』(杜真琴、若木未生)レビューを執筆
  • マンガ新聞にて『十二国記』シリーズ(小野不由美)レビューを執筆