連載マンガの起死回生力

クレムリン

もう何度も使い古されている言葉だが、依然として出版業界を取り巻く状況は厳しい。
出版市場がピークだった1995年のあと、マンガ雑誌・単行本の売上げも減少の一途をたどっている。雑誌の休刊・廃刊も数知れず。

こうした事態を免れるためマンガ雑誌の編集側も新人漫画家を積極的に起用し、新たな人気漫画家の創出に躍起だ。新人漫画家にとっては作品発表のチャンスかもしれないが、ようやくデビューできても一発屋、もしかしたら一発屋ですらなかったという状況もきっと存在しているだろう。

昨今のそんな中、新人による連載マンガでとりわけ強い生命力を見せたマンガがある。
「週刊モーニング」(講談社)に連載中の『クレムリン』だ。

『クレムリン』は3匹のロシアンブルーの猫「関羽」(3匹とも名前は同じ)と、関羽を拾い一緒に暮らすことになった青年・却津山 春雄(きゃっつやま はるお)による不条理ギャグマンガだ。
その生命力の強さは2009年、「モーニング」主催で開催された新人賞「第26回 MANGA OPEN」にさかのぼる。
一度落選したにも関わらず編集長の目に止まり、「モーニング・ツー」での連載が決定したのだ。
ここで「みごと商業誌デビュー!」といいたいところだが、その後の経緯は少し複雑だ。

まず、2010年に「モーニング」でも連載がスタートするが、翌年には「モーニング」での連載は終了する。
作者ブログ「猫痙攣」によると、アンケートも単行本の売れ行きも「可もなく不可もなく」といった塩梅だったらしい。「モーニング・ツー」での連載は続行するが、区切りという意味で終了に至ったようだ。
しかしその後、すぐに「モーニング」で連載が再開している。
これはアンケートの結果が、編集部によって設定されたボーダーラインを達成できたことによるものだという。
連載中に打ち切りは決定していたが、担当編集の尽力で復活のチャンスを取り付けることができ、かつ読者アンケートの結果で見事目標をクリアしたことによって、ふたたび誌面に蘇ったのだ。

こうして、ギリギリのところで1度目の起死回生となった。

一方で「モーニング・ツー」での連載は2012年の43号で終了だ。
悲報にも聞こえるが、作者によるエッセイ「負ける技術」の連載は「モーニング・ツー」で続いていることに加え、YouTubeでフラッシュアニメが公開されるなど躍進中だ。
さらに、『モーニング・ツー』での新連載が決定(どのような内容になるかは、この原稿を書いている時点では不明)。2度目の起死回生となっている。

一時は連載終了まで追い込まれたわけだが、実はとんでもなく不死鳥作品なのではないだろうか。
この背景に考えられるのは、編集部側のドラマ演出と、作者のキャラクター性・エッセイというマンガ以外の面白さがある。
まず「連載が終了するかもしれない」事態を編集部側がオモテに出した。当然連載の動向に注目が集まるわけだが、そこに作者がTwitterで自虐的心情をつぶやくことで、「打ち切りかもしれない」というマイナスの状況を一笑に付すことができた。

結果として連載は再開したが、もし終了していても「負ける技術」の格好の題材となっていたのではないか。

たとえ打ち切りの憂き目にあっても、起死回生を狙うことは可能だったのだ。
(ちなみにこの「負ける技術」、かなり“読ませる”ものだ。)

キャラクター性のあるマンガ家は強い。

ソーシャルメディアで作家自身の露出が可能になった現代では、特にそうだ。マンガ作品の魅力そのものはもちろんだが、マンガ家のキャラクターというマンガ以外の新しい要素も、作品を支える時代なのだ。

関連サイト
時を翔ける天使 カレー沢薫の負ける技術 〜世界最弱から世界最高へ〜

kawamata
文=川俣綾加
1984年生まれ福岡県出身。フリーライター、猫飼い。岡田モフリシャス名義で「小雪の怒ってなどいない!!」を「いぬのきもち ねこのきもち WEB MAGAZINE」にて連載中。ライターとしてのジャンルは漫画、アニメ、デザインなど。冒険も恋愛もホラーもSFも雑多に好きですが最終的になんとなく落ち着くのは笑える作品。人生の書は岡田あーみん作品とCLAMP作品です。個人ブログ「自分です。