寄 稿

“イエ充”によるお取り寄せ――グルメマンガの今。

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おとりよせ王子 飯田好実 高瀬志帆

自分の家の中でのんびりくつろぐことを好む20代、30代ーーつまり「イエ好きでイエ充」が増えているという。

ネット環境の向上、ゲーム機、好きな番組が見放題のCS放送といった、室内で過ごすためのハードやソフトも年々クオリティが増しており、外に出なくても楽しく暮らすことができてしまう。「イエ充」はもはや止められない時代の流れであり、今後しばらくは続いていくと思われる。

この「イエ充」の空気を象徴するマンガが、今回取り上げる「おとりよせ王子 飯田好実」(「月刊コミックゼノン」連載中)である。本作は、主人公が週1回のノー残業デーに、毎回違うお取り寄せグルメを楽しむというストーリーだ。取り上げられる食品は、北は北海道の「松坂牛大とろフレーク」から南は佐賀県の「蔵出しめんたい」まで実に様々で、読者を飽きさせない。

コミックスは5月20日に第3巻が発売されており、既に累計25万部を突破している。

また連続ドラマ(メ~テレ、ひかりTV、tvkにて放送中)がこの4月より放映され、注目を集めてきた。飯田好実名義のツイッターアカウントのフォロー数は、番組効果もあり現在1万越えとなっている人気ぶりだ。今年の4月4日から10日にかけては、主人公の住んでいる(とされる)吉祥寺の東急百貨店で、物産展とコラボレーションしたイベントが開催され、こちらも盛況だったようである。

「おとりよせ王子」こと飯田好実は独身で一人暮らし、彼女なしの26歳SE男子である。普段は仕事で忙しいが、毎週水曜日のお取り寄せデーと休日はほとんど家にいる「イエ充」だ。彼のお取り寄せ時のテンションの高さと、職場で黙々と仕事をこなす様とのギャップはこの作品の面白さの一つである。

なぜ、この「おとりよせ王子 飯田好実」が今の時代の雰囲気に合っており、多くの人を引き付けるのだろうか。それは、この作品がグルメ描写と共に若者のリアルな生態を丁寧に描いているからだと考えられる。

彼は、ソーシャルメディアを「家の中で人とつながるツール」として効果的に使用して充実した生活を楽しんでいる。飯田の世代は「プレッシャー世代」(1982年~1987年生まれ)と言われている。社会不況などのあらゆる外圧に耐えて育ち、その結果無駄なプレッシャーから逃れる術を身につけている世代とされ、このように命名された。

メールやSNSなどのコミュニケーションツールと共に成長してきた彼らは、人とつながることを強く意識しており、そのための通信費は惜しまない傾向にある。

飯田はお取り寄せの度に、その食べ物についてTwitterでつぶやくことを習慣にしている。そのセンスが光っていたため、彼のフォロワーは一般人としてはかなり多い。Twitterは人づきあいの苦手な飯田にとって、実生活では発揮できない才能を表す場所になっているのだ。

元来のお取り寄せのコミュニケーションとは、遠方からめったに食べられない食べ物を取り寄せ、誰かと分かち合って食べる、という形式である。しかしこの作品では、自分のためにお取り寄せをし、それを見知らぬ人達に披露するという形を取っている。

これはFacebookといったSNSに自分が食べた料理を写真とともにアップし続けることで、結果的に「実名グルメ口コミSNS」が形成される道程そのものであり、かつ現代における新たな「お取り寄せ」のカタチが描き表されていると言っていい。

飯田が美味しそうな料理の写真と詳細な感想を送った瞬間、フォロワーから続々と反応が届く。部屋の中から世界と、見知らぬ人とつながる奇跡と喜び。煩わしいことを回避し、それを享受することができる家の中は、実に籠りがいのある、居心地の良いシェルターなのかもしれない。

これからも様々なお取り寄せが登場し、読者の目を楽しませてくれるはずの『おとりよせ王子 飯田好実』。今後の展開における最大の関心事は、2巻で表出した「父親との確執」だろう。彼が実家を出た原因が親子の不仲にあることは十分考えられる。またお取り寄せによる「イエ充」ライフを始めた理由もそこにある可能性は高い。

今後、父親という彼にとって最大のプレッシャーとどう対峙していくのだろうか? これはそのまま、若者にもあてはめられるテーマではないのだろうか。イエという、己を守る場所から“外”に出る、あるいは“外”と対峙せねばならない時、どう考え行動していくのか。

飯田はすでに社会人として働いているが、そういう意味ではこのマンガは学生 対 社会という見方もできる。社会、親、大人として抱えなければならないプレッシャー……そういった通過儀礼をどう越えていくのか。居心地のいいイエ充ライフは、どうなるのだろうか。

この作品にはお取り寄せグルメやSNSとリアルでの自分といった、現代になって注目を浴びるようになった物事が描かれているが、根底のテーマはどの時代でも大切な「大人への成長」なのかもしれない。

(kuu)

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