寄 稿

熱気を帯びつつあるアナログゲーム界隈

こちらのコンテンツは、STUDIOVOICEからの許諾を得ての転載となります。
放課後さいころ倶楽部 中道裕大

ハイカルチャーの条件とは何だろうか。
伝統があり、議論や評価をする場が整っており、嗜むのにそれなりの財政的な負担を覚悟する… 少し考えただけでもいくつか条件が想い浮かぶ。

ハイカルチャーとローカルチャーは時代とともに流動する側面も持つ。例えば、マンガは幅広い層の人が手に取り、近年は随分議論する場も揃ってきている。善し悪しは別として学問として学ぶ場も増えてきていることから次第にローカルチャーから離陸しつつあるのが実情だといえる。

すでにハイカルチャーとされる歌舞伎も、もとをたどれば戦国時代に派手で異形の装束をまとう荒くれ者(傾く者=かぶくもの)の姿を真似、型破りの舞を踊ったところから始まった。江戸時代には庶民が楽しむ大衆演芸的要素が強かったとされ、重要無形文化財に認定されたのは1965年と意外に最近のことだ。同じく、茶道も戦場に向かう武士たちがひとときの静けさを得たり、宴会の一部として行われたりしていたものを、豊臣秀吉が武将の嗜みとして一気にハイカルチャーに引き上げたというのは有名な話であるし、近年ではサッカーがJリーグ発足により、野球をしのぐような国民的スポーツに成長したことなども好例といえよう。

そんな文化としての様相について意識させられるマンガが、中道裕大『放課後さいころ倶楽部』(小学館、『ゲッサン』連載)である。

主人公、武笠美紀はクラスでもあまり人との関わりを持とうとしない控えめな高校生。そんな彼女が、転校してきた好奇心おう盛なクラスメイト、高屋敷綾の登場により「ドイツゲーム」として近年知名度を高めてきた海外のアナログゲームの世界にのめり込んでいくストーリーだ。しかし、この二人はゲーム初心者。二人とゲームを結びつけるには、クラス委員長として学校で完璧な姿を演じながらも、兄の影響で小学生のときからそれらに親しんできた、大野翠の存在が欠かせない。

構成は基本一話完結。各話ごとに海外のアナログゲームを主人公たちがプレイし、その面白さを伝えるものだ。ただ、それだけであればゲームの宣伝マンガになってしまうが、本作ではゲームをプレイする側からの視点だけでなく、作る側からの視点も交え語っている点が大きく異なる。

誰もが楽しみ、繰り返しプレイする事ができるゲームを設計するためにどんな工夫がされているのか。どうやって可能な限りシンプルな構成で奥深い世界観を作っていくのか。さらに言ってしまえばゲームを介して人々を幸せにできるのか・・・。ゲームをプレイする中で、美紀と綾はそこに込められた作家の意図に気付いていく。それに対し、ゲームに精通している翠や彼女のアルバイト先『さいころ倶楽部』の店長がそれぞれのゲームが作られたエピソードを紹介する。中でも力を入れて解説されているのは、アナログゲームの地位を立派に文化として語られるステージにまで高めようと努力した、ゲーム作家たちの努力である。店長が言う。

「ドイツではゲームの作り手を『作家』と呼ぶ。ほら、どのパッケージにも作者の名前が書かれているだろう?『小説家』や『漫画家』と同じように、ドイツゲームは『ゲーム作家』が誇りを持って創り出しているんだ」

わずか50年前までは作品、作家という認識を持たれていなかったアナログゲームの地位を、アレックス・ランドルフをはじめとする作家たちは絶え間ない努力で、正統なカルチャーとして認知される位置まで押し上げたのだ。

同じようにマンガやアニメといった海外からクールと賞される日本文化も、登場から長い年月をかけてようやく一般化した。アナログゲームはヨーロッパでは広く認知されているが、日本ではまだ一部愛好者が嗜むという認識が強い。今後、こうしたゲームが広く楽しまれるようになるためには、先に挙げたいくつかの条件をいかにしてクリアしていくかというハードルが存在する。

だが、こうした文化の定着過程をただ傍観するのはもったいなくはないだろうか。是非、本作を読まれて「こんなに面白い世界があるのか」と感じられるのであれば、アナログゲームの楽しさを体感し、広める側に参加してみてほしい。実際、アナログゲーム人気の高まりを受け、ボードゲームカフェと呼ばれる空間が全国に生まれてきているし、専門店も増えてきているのだ。私たちが文化に押し上げる側にまわるための土壌もまた整えられてきている。

『放課後さいころ倶楽部』はそんな熱気を帯びつつあるアナログゲーム界隈の楽しさを伝えるだけでなく、ローカルチャーがハイカルチャーに昇華するうねりを感じさせる魅力的なマンガだといえよう。

文=いけだこういち
1975年、東京生まれ。マンガナイト執筆班 兼 みちのく営業所長。好きなジャンルは少女マンガ。谷川史子、志村貴子作品をマイ国宝に指定している。日々、大蔵省(妻)の厳しい監査(在庫調整)を受けながらマンガを買い続ける研究者系ライター。どうぞごひいきに。

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