「正義」の味方って誰の味方? 透明人間になれたら本当に嬉しい? 人間並みの知能を持ったロボットが誕生したらどうなる? アイディア自体はよくあるものでも、石黒正数のユーモアあふれる調理が絶品。『それ町』主人公の嵐山歩鳥というキャラクターが誕生した作品も収録でお得感満載の一作。
響子と父さん
定年退職して1年の父と長女響子の日々。大抵のことはかみ合わないが、大事なところは理解しあえている父と娘の「絶妙な距離感」が温かい。響子と対照的に家出中の次女春香、そして大体旅行中の妻の存在も相まって、家族というつながりについて考えさせられる。1巻完結だが、『ネムルバカ』とつながりがあるところもファンにはたまらない。
外天楼
笑えて、泣けて、鳥肌。てんでバラバラなエピソードが急速に収束していく快感。圧倒的な構成力と、それを読者に悟らせない演出力。セリフの一言一言に潜むユーモア。こんなマンガを描ける人の頭は一体どうなっているのだろう。稀代のストーリーテラー、石黒正数のエッセンスが詰まったこの作品から、あなたもぜひ石黒ワールドへ。
それでも町は廻っている
石黒正数代表作。突然メイド喫茶になった喫茶店シーサイドで働く嵐山歩鳥の高校3年間の物語。SFあり、人情あり、ユーモアあり、ホラーあり…。既存のジャンルに当てはめることは難しいが、日々の生活のふとした面白さを、マンガというメディアだからこそできる形で提示してくれる本作。何度読んでも新しい発見があり、「廻」り続けるそれ町の世界はいつ訪れても最高に魅力的。
平成よっぱらい研究所
「こんなに周りに迷惑をかけて自分はもうだめだ」と、酒を飲んで後悔したとき、この本を開こう。「まだまだ二ノ宮先生レベルじゃないから大丈夫だ」と安心して、あなたはまたお酒を飲むことができるだろう。「のだめ」の二ノ宮知子だけを知っている人が読んだら驚愕の内容だ。ただただ二ノ宮先生とまわりの愉快な仲間たちが酔っ払っては、まわりの人たちに迷惑をかけて怒られたり、わがままを言ってほどこしをうけたり、逆に酔っ払いに絡まれて死にそうになったり…と本の内容を説明しようと思うと、しょうもなさすぎるものなのだが、謎の勢いがあり、謎の元気をもらえる…と思う。たぶん。この作品が今出たら確実に炎上案件なので(特にカップルを花火で撃退する話はひどい)、あまりまわりに広めすぎず、こっそりと楽しむことをすすめたい。
音楽と漫画
「ヒマだからバンドやってみっか」楽器をまったく知らない不良3人が始めた音楽は、ベース2本とドラムをただ無心に弾き続けるめちゃくちゃなものだった。歌もメロディもコードもない。けど3人は「カッコよくね?」「気持ちいい」と己の演奏に惚れこむ。やり続けていたら「男らしい」「前衛的」と支持者が現れ始め……技術とかビジュアルとかオーラとかではない、ロックの原始的な魅力がここにある!
ソウナンですか?
巷には「女子高生×〇〇」系のマンガが数多くある。はいはい、萌え系ね、可愛い女の子を出せば売れると思ってんだろ、興味ないよ…と敬遠することなかれ。女子高生はあくまで入口を広げるツールであって、「×〇〇」の部分にこそ作者の真の熱量が潜んでいるのだ。その点自らの猟師としての日々を綴った『山賊ダイアリー』の作者、岡本健太郎先生が原作に入った本作のガチ度は折り紙付き。ぜひ手に取ってセミの食べ方等実践的アウトドアスキルを学んでください。なお、私は表紙につられてジャケ買いしました。
ハチミツとクローバー
高校のころ初めて読んだときには「片思いっていいよね」くらいに思っていたけど、歳を重ねて読み方が変わってきました。一見甘い砂糖菓子でコーティングされているから、「ゆるふわ恋愛漫画」だと思われがちだけど、内面をきつくえぐってくる作品。「才能がなければもがくしかない」、「お金がなければ大切な人も支えられない」。そのシビアな世界を伝えてくれました。生きていくための一冊です。
半神
腰のところがつながって生まれた双子の少女、ユージ―とユーシー。ふたりは体の機能を共有していて、ユージーは賢いけれども栄養状態が悪く、ユーシーは知能は低いけれども天使のように愛らしい美貌の持ち主。生まれてから16年の間にふたりの身に起こった出来事が、ユージ―の視点で淡々と語られます。中学生の時に初めて読んで、たった16ページのマンガで、こんなにも深く人間の業について考えさせられたことに衝撃を受けました。マンガという表現の持つ力を実感した作品です。
鈴木先生
絶対的な正しさの存在をぼんやりと信じていた中学生の私に、物事にはグレーゾーンがあるということを教えてくれた作品。中学校教員の鈴木先生が生徒の悩みを解決していく…とだけいえばよくありそうな話ですが、『鈴木先生』のすごいのは問題の本質をひたすら考え抜くことから全てが始まること。「常識」に与せず徹底的に考え、その信念に基づいて行動する。自分の頭で考えるとはどういうことか、私は鈴木先生に教えてもらいました。
BASARA
20世紀の文明が滅んだあとの日本を舞台に、各地の独立状態から人々が革命軍と旧体制で国づくりをしてく作品。王が突然戦場で「王を辞める」と言う場面があります。兵士たちは困るじゃないですか。それで兵士が「どうすればいいですか?」と聞くと「そんなこと自分で考えろ」って言われるんですよ。超個人主義の世界観ですよね。「最終的に人生を決めるのは自分しかいない」というメッセージは、学生時代に友人が少なかった私に強く響きました。
NATURAL
マンガにハマるきっかけとなった『セーラームーン』、海外育ちのわたしに良い東京指南書となった『こち亀』など選びきれないが、帰国して高校にも日本の環境にも馴染めなかったわたしに大切なことを教えてくれたのがこの作品。主人公がペルーから日本の養子に入るところから始まる。育った環境も価値観も何もかも違う中で、沢山の人に出会い成長していく。とにかく作者の視線は繊細で優しく、しかし客観的な冷静さで登場人物たちを包み込む。「還る」場所を探していた自分に静かに染み渡り、今でも核になっている。
昴
曽田正人の作品はどれも好きだけど、大学生のときにタイムリーに読んでいたのが『昴』。ゴールが見えない中での天才の苦悩や葛藤を描いている作品です。自分も会社を興して人をひっぱっていく立場になったとき、自分一人の考えで進めていってしまうと、いつかは人が離れていって、自滅していってしまのではないか。たとえどれほどの天才でも、周りのサポートがないと社会でうまくやっていくのは難しいということを教えてくれます。
TRIGUN MAXIMUM
この作品の主人公は「絶対に人を殺さない」ことを信条に掲げている。相手が自分や誰かを殺そうとする悪人でもだ。漫画の舞台は地球ではない砂漠の国。生きていくのも困難な環境。偽善者だと人にののしられながらも、主人公はその困難な道を選びつづけている。誰も不幸にならないよう考えられる最善の道を、ボロボロになり苦しみながらも進んでいこうとする姿は、高校生のときに初めて読んで衝撃を受けた。自分もこうなりたいと憧れる永遠のヒーローです。
ねじ式
高校は男子校で、寮に住んでいて、寮の中で漫画が回ってくるのが日常でした。すごくたくさんの量があったけど、その中でも天久聖一の作品と『ねじ式』と『サルでも描けるまんが教室』は特に記憶に残っていて。『ねじ式』は、絵のきれいさとか、文芸的な間の取り方が、ほかにはなくて革新的でした。今の自分の趣味嗜好の形成は、その寮生活のなかで作られたと思います。
極東学園天国
高校まで義務教育となった近未来の日本のような所=極東の、「普通」からこぼれてしまった問題児ばかりが集まる高校を舞台に、彼ら魂をかけて送る奇妙で熱い学園生活の中のドラマを描く。なんだかうまくいかない感に苛まれていた大学時代に読み、火傷しそうな、血が出そうな「青春」の物語に圧倒され、救われた気がした。マンガってこんな表現もできるんだ、と思わされた作品でもある。作中の「『死にたい』は『生きたい』だ」「冬のように生きても、春は来る」といった台詞は、つらい時の心にいつもこだまする。
日々ロック
主人公のいじめられっ子高校生が、文化祭でライブする場面。不良にスコップで頭をぶっ叩かれて血みどろになりながらも、笑顔&パンツ一丁でロックンロールを歌い続ける。すると別のいじめられっ子がライブ会場の体育館を重機で破壊しに来る。常識を破るロックステージの連続で、就活期にコンビニで立ち読みした時、脳天に電流が走った。志望するメディア企業に落ちまくっていてほかの業界に就こうか悩んでいるところに、一時フリーターになってもいいから挑戦してみよう、というエネルギー、勇気を与えてくれた。
ハチミツとクローバー
才能があったり、可愛かったりする登場人物のなかで、主人公の竹本くんだけは、本当に普通の男の子。なかなか就職先が見つからず、悩んで自分探しの旅に自転車で出かけるところが印象的で。私が『ハチミツとクローバー』を読んだのがちょうど大学生で、就職活動に悩んでいる時期だったので、一緒に就職活動をしている気分でした。「同じような人がこの世界にいる!」ということが、自分にとって何より救いでしたね。わたしも一人旅行きたかったな。