GIANT KILLING

「普通に考えたら出来なさそうなことをひっくり返して、ワクワク感を持ちながら過ごしていきたい」。そのスタンスを学べる作品。あきらめないでチャレンジすることを伝えてくれます。印象に残っているのは、主人公の監督から選手に言った「ピッチに立つ以上 誰一人手ぶらで帰ってくるんじゃねえぞ!」というセリフ。自分も何かをする以上、ちょっとずつ進んでいくんだ、と読むたびにモチベーションが上がります。

kiji
文=木嶋雅史
1981年千葉県生まれ、立川在住。ITサービスに従事するかたわら、趣味の自転車で多摩中を巡っている。メンバー中最もマンガを読んでいない部類に入り、普段はもっぱら活字派だが、マンガナイトのオススメマンガを手に取るうちにマンガのおもしろさにはまり始めた今日この頃。ジャンプやマガジン世代で仮面ライダーが好き。最近はのりりんも好き。マンガナイトの他、奥多摩トレックリングという日帰りレンタサイクルツアーも定期的に開催している行動派。

Spirit of Wonder

男の子のための本です。高校生の時に読んでから、もう何冊も購入しています。世界の不思議(wonder)に対する探究心(spirit)がテーマで。世界を構成する見えないエネルギーを信じている世界で、そういうエネルギーを使った世界をつくることなどを描いています。僕にもめでたく子供が生まれて、子育てをしていると、子供にはそういう見えない面白いものが見えているんだなと最近実感していて。大人になるとなくなっていく、そういう感覚を思い出させてくれる作品です。

ohta
文=凹田カズナリ
街の文化を支える書店チェーンで勤務。平和台→早稲田→五反田店でコミック担当を歴任。現場で仕入れた知識を広めるべくマンガナイトにも参画。2011年~「このマンガがすごい!」「このマンガを読め」にもアンケートを寄稿。日本橋ヨヲコ、鶴田謙二、長田悠幸、阿部共実、きくち正太、山田穣、谷川史子、堀井貴介、沙村広明、松本藍、篠房六郎(敬称略・順不同)を筆頭にオールジャンル好きな漫画多数。

日出処の天子

小学生の私は、物語というものは、誰かが幸せになったり、成長したりするキッパリとしたオチが必要だと思っていた。「火曜日にコンビニに行くと既にジャンプが無い!」というジャンプ黄金期に育てられた私は、オチがないと物語がある意味がないじゃない! ぐらいに感じていたのだ。努力、友情で勝利だぜ! でも『日出処の天子』は、本物の名作とは、そんなところとは別のところにあるんだ、と教えてくれた。誰も幸せにならない、誰も成長しない終わり方。でもこの物語は美しい! と初めて感じたマンガ。

文=大阪れい

きみのことすきなんだ

少女漫画に出てくる男の子は、スポーツができたり勉強ができたり、かっこいいことが前提だった。小学校6年生のときに読んだこの作品は、主人公が魚屋のすごく普通の男の子で、好きになった女の子もすごく普通の子。少女漫画の中にも、普通の男の子の居場所があると気づかせてくれました。すごく丁寧に描かれた詩的な作品。自分の息子にも読んでもらえるよう、さりげなく手に届くところに置いておきたいです。

文=いけだこういち
1975年、東京生まれ。マンガナイト執筆班 兼 みちのく営業所長。好きなジャンルは少女マンガ。谷川史子、志村貴子作品をマイ国宝に指定している。日々、大蔵省(妻)の厳しい監査(在庫調整)を受けながらマンガを買い続ける研究者系ライター。どうぞごひいきに。

モテない女は罪である

まず、刺激的なタイトルが好き。帯のコピーも秀逸。「あなたは、いつまで愛されないという罰を受け続けるのか」…だぜ? 女どもを煽る煽る。テーマは男が語る「女がモテるための秘密」らしいけど、そんなチープなノウハウ本じゃない。「洞察することのできる力」をどのようにして養うのか。ボロボロになりながら「山よ!銀河よ!俺の歌を聴け!!」と描きあげられた作品。マクロスの世界にこの本があったなら、戦争は起こらなかったかもしれない。超時空シンデレラを目指せる1冊です。結婚相談所のアドバイザーは全員読め!

文=小谷中宏太
1991年生。千葉県市川市出身。普段は、行政機関や不動産デベロッパー等に対して「人が集まり、賑わいが生まれる場」を企画・提案する仕事をしています。マンガナイトに参画した理由は、仕事の一環として、マンガが持つコミュニケーションツールとしての可能性に注目していたこともありますが、やはりマンガやアニメについて思いっきり語れる「場」に居たいということと、自分もそんな「場」を創ることに対して、力になりたいと思ったからかもしれません。マンガナイトではワークショップの運営と「日替わり推しマン」の執筆が中心ですが、何でもやります。お気軽にご連絡下さい。

ヘルタースケルター

高校生のときにヴィレッジヴァンガードで平積みにされていて、表紙のインパクトに思わず手に取った。それが初めての岡崎京子との出会い。
主人公のりりこはトップモデルで誰もが憧れる存在。でも本人は圧倒的な孤独を持て余し、自分でもくだらないと思う行動ばかりとってしまう。
美容整形の副作用や仕事のストレスで、心身ともに蝕まれていき……でも、全て自分の選んできた道であり「進むしかない」と突っ走る。
自分の好きなように生きていいんだ、と、読むたびに彼女の力強さに鼓舞されます。

文=山口文子
1985年生まれ。映画制作を目指して迷走中。歌も詠む。マンガナイト見習いで、執筆などをお手伝い。 女子高時代、魚喃キリコの『短編集』をきっかけに、安野モヨコ、南Q太などフィールヤング系を読みあさる。その後、友達と「週10冊ずつオススメ漫画を交換する」修行を数ヶ月行い、興味のベクトルが全方向へ。 思い入れの強い漫画に『BANANA FISH』、『動物のお医者さん』、『ナンバー吾』。岡崎京子の影響を受け続けて今に至る。

華中華

横浜中華街を舞台にした、チャーハンひとすじグルメ漫画、全19巻。高級店で下働きする主人公が、街の小さな店で、安い、うまいメニューを振る舞う。登場する料理は、単行本で1ページずつ使って紹介。合計で124ものレシピは、多くが作中の設定通り、ありふれた食材で再現できそうだ。専門料理漫画として長く続いたのは、原作者の力が大きい。残念ながら西氏の逝去により、傑作和菓子職人漫画『あんどーなつ』とともに未完。両作品とも、主人公のように日々を全力で、大切に生きようと思わせてくれる作品だ。

文=旨井旬一
1978年、山形県山形市生まれ。業界新聞記者歴16年、グルメマンガ蒐集家。取材で主に担当してきた分野はバイオテクノロジーとスマート農業。特に畜産の和牛改良や蜜蜂不足問題、豚コレラ対応など。好きな食べ物は、冷やしたぬき蕎麦。

淋しいのはアンタだけじゃない

『ブラックジャック創作秘話』で注目を集めた吉本浩二さんによる最新のルポマンガです。
聴覚障害者への丁寧な取材を元に聴覚障害者の現実を読者に分かりやすく、過剰なほどに詳細に理解させてくれる作品です。
取材をする中で、「ゴーストライター事件」で有名になった佐村河内氏にたどり着き、取材されること・取材すること、マンガを含めたメディアの役割についても一つの大きなテーマとして、物語を動かしていきます。
聴覚障害にはさまざまな程度があり、また時と場合によって聞こえ方が大きく違うことがあり、一見健常者に見えてしまう分、大きな苦しみを抱えている人は少なくありません。
聴覚障害者について、周囲の人間が理解を深めるとともに、このマンガを通じて「理解者」が増えることで、聴覚障害者当人だけでなく社会全体が、多様性で豊かなものになるのではないかと思わせてくれます。

文=岩崎由美
文京区在住。得意技は、会議運営と「ThinkPad」によるタイピング。打ち合わせで最善策をメンバーに決めさせる技を持つ達人。一方で、「オシャレ番長」としてメンバーの美意識向上に邁進する。好んで読むのは今日マチ子さんや岡崎京子さんら女性の心を描いたマンガ。アート分野の造形も深く、美術鑑賞も趣味にしている。

僕が私になるために

性別違和(性同一性障害)を有する作者が、「身体的」にも「法律的」にも女性になる過程を描いた作品。読めてよかった。作者は性別適合手術(かつては性転換手術と呼んだ)を受けにタイに行くのだが、そこでの出来事は想像の域を超えている。手術って結局何をどうするの?という疑問にも具体的すぎるほど具体的に答えてくれ(この件を平常心で読める男性はいないだろう)、手術前後に作者が吐露する孤独と不安は胸に突き刺さる。手術を終えて日本に帰ってからは法律上も女性となるべく奮闘し、最後は裁判所にも赴く。まさに当事者だからこそ描けた作品。
このように書くと重苦しい作品のようだが、作者の語り方が絶妙。深刻なテーマを軽やかに包み込んで読者に提示してくれる。タイのナースの底抜けの明るさには思わず笑ってしまうこと間違いなし。時には凹みながらも前向きに生きる作者の姿勢が愛おしい。
性の多様性について様々な意見が飛び交う昨今、当事者の具体的な経験を知るという意味でまず手に取ってほしい一冊。

文=青柳拓真
1992年生。10代の多くをシンガポールで過ごす。何度も読み返してきた漫画は「ジョジョの奇妙な冒険」、「鈴木先生」、「それでも町は廻っている」、「三月のライオン」、「魔人探偵脳噛ネウロ」など。漫画の面白さって何なんだろう、「漫画」ってどう定義できるんだろう…とか色んな作品を読んで考えるのが楽しい。オールラウンドなマンガ読みを目指して最近は恐る恐る少女漫画に挑戦中。

となりのロボット

人工知能(AI)やロボットが、身近な存在になった現代。IBMの人工知能「ワトソン」などが登場し、工場や販売店では、ロボットと人間がすでに一緒に働く。最後に残されている領域が、人間同士の感情のやりとり、例えば恋愛だ。人工知能(AI)を組み込み「だいたい人と同じことができる」ロボットと、少女の交流を描いたこの作品は、この最後の領域を描き、「相手を思う/恋愛とは何か」という本質に迫っている。
AI搭載ロボット「ヒロちゃん」に告白した少女「チカちゃん」。もちろんヒロちゃんはこの感情を「データ」としか受け入れられず、チカちゃんは「わかってくれない」と思い悩む。「人間とAIという違い」と思いがちだが、実はこうした感情のすれ違いや不釣合いは人間同士でも起こりうる。他人である以上、相手の感情や思いをすべて正確に理解できるわけではない、と読者は突きつけられるのだ。
こうした「感情のつりあいをどう確認するのか」という問いに対し、作者は「どれだけ相手と時間を共有したいか」という答えを示す。実際「ヒロちゃん」はチカちゃんに会えない間、再開したときデータを蓄積できるように作業領域に空きを作っていた。人間に近づくように作られたからこそ、自分の中で優先順位をつけ、「世界で一番好きな相手」のために自分の中に時間とスペースを作るのだ。そんなヒロちゃんに対し、チカちゃんも可能な範囲で自分のすべての情報を伝えようとする。
数多くの「恋愛」が描かれたマンガでも、「好きな相手はどう判断するのか」という基準は明確に示されてこなかった。「相手とできるだけの時間と情報を共有したい」―データを収集できるAIを相手にしたからこそ、恋愛を頂点とする一対一の交流の究極の判断基準のひとつが浮き上がってきた。作品を読み終わって周りを見渡せば、あなたの「一対一の関係を築きたい相手」が見つかるかもしれない。

文=bookish
1981年生まれ。「ドラえもん」「ブラック・ジャック」から「週刊少年ジャンプ」へと順当なまんが道を邁進。途中で「りぼん」「なかよし」「マーガレット」も加わりました。主食はいまでも少年マンガですが、おもしろければどんなジャンルも読むので常におもしろい作品を募集。歴史や壮大な物語をベースにしたマンガが好み。マンガ評論を勉強中。マンガナイト内では「STUDIOVOICE」のコラムなど書き物担当になっています。マンガ以外の趣味は、読書に舞台鑑賞。最近はサイクリングも。

がんばれ!パンダ内閣

日本の総理大臣にパンダの赤ちゃんが選ばれてしまった、という異色な政治漫画が2004~2005年に「週刊プレイボーイ」で連載されていた。つの丸の『がんばれ! パンダ内閣』だ。
人気のない動物園に生まれたパンダ・シャオシャオ。特に芸を披露しなくとも、ゴロゴロ動くだけで大人たちは大はしゃぎ。パンダの赤ちゃんというだけで、世間から国民的スターとして扱われる。そこに目をつけたのが与党の民明党。急落してた人気を回復しようと、党首、つまりは首相にシャオシャオをスカウトする。
総理大臣任命式。「あーあー」とよだれを垂らしながら国会のマイクをボンボンいじる。会議でうとうと眠りこける。議事堂のなかを三輪車でキーコーキーコー移動する。か わ い い。大臣14人を園内の動物や飼育員ばっかりに任命しようとしたり、お堅い政治をパンダが自由気ままにおこなっていく姿にほのぼのする。
一方でシャオシャオを首相に仕立てあげた党の幹部たちは、「政治のことは難しいから私達に任せなさい」とつくり笑顔で迫る。もともとシャオシャオの前から、スポーツ選手や芸人など人気者を”客寄せパンダ”として首相にし、実権は自分たちで握るつもりだった。満州国の元首を幼い中国皇帝にすえおき、中国人の顔を立てながら、政権を担っていた大日本帝国の姿と重なる。
政界でパンダがのびのびゴロゴロ過ごす裏には、政治のイメージ戦略に対し皮肉がたっぷりつまっている。パンダにデレデレする議員や国民を客観的に見つめながら、自分は政治家に表面だけで振り回されていないかかえりみよう。
なお、作者のつの丸は、『みどりのマキバオー』『モンモンモン』と動物を主役に名作を連発してきた漫画家。デフォルメしたパンダの赤ちゃんはさすがにかわいい。そしてやっぱりモブキャラはみんな鼻の穴がでっかいし、フルチンです。

文=黒木貴啓
1988年生、鹿児島出身、東京在住のライター。マンガナイトでは執筆を担当してます。ロックンロール、もしくは仮面が題材の漫画を収集&研究中。大橋裕之「音楽と漫画」、榎屋克優「日々ロック」、そして何よりハロルド作石「BECK」……日本人が成したことないロックの魔法を漫画のキャラが見せてくれるところに、希望を感じてしまいます。

クニミツの政

 「選挙で誰に投票すれば」という悩みにずばり応える作品。主人公の熱意と心からの訴えが、「自分のやってほしいことを代わりにやってくれる人を選ぼう」と読者に思わせてくれる。
主人公は縁あって、政治家秘書になった自称「中学中退」の武藤国光。強力なライバルにも負けず、熱意と発想で人を巻き込み、秘書として仕えた政治家を見事当選させる。
政治家は人に応援してもらわないとその職にも就けないし、物事も進められない。究極の人たらしがそろい、あの手この手で「自分に一票を」と訴えてくる。そんな日本の架空の都市の市長選を描くこの作品が強烈に訴える「政治家はひとりひとりが選び、市民によって作られる」という主張はそんな誘惑を跳ね除けさせてくれる。作中にはおそらく現実の政治家をモデルにしたのであろう、様々な政治家が出てくる。それでも最後に勝つのは、地域の人のことを全力で考え抜き、行動すると訴えた政治家。それは作中の市民が、「この政治家の描く未来を共有できる」と思って投票に動いたからだ。
作者の主張が前面に押し出され、今となっては首を傾げる選挙戦略や主張はある。やや品のないギャグも盛り込まれているし、そもそも未成年が政治家秘書をやっていいのか、などなど。しかしこの作品の熱さは「マンガだから理想」とシニカルに構えることを許さない。「マンガを読んでバスケットボールやサッカーを始めるのと同じように、選挙マンガを読んで、誰となら未来を共有できるか考えて投票しよう」と考えさせる。
難しいのは「自分のやってほしいこと」は本人が決めなければならないということ。しかし小さなことでもいいから「こうなってほしい」ということを見つけて、一票を託す相手を決めたい。

文=bookish
1981年生まれ。「ドラえもん」「ブラック・ジャック」から「週刊少年ジャンプ」へと順当なまんが道を邁進。途中で「りぼん」「なかよし」「マーガレット」も加わりました。主食はいまでも少年マンガですが、おもしろければどんなジャンルも読むので常におもしろい作品を募集。歴史や壮大な物語をベースにしたマンガが好み。マンガ評論を勉強中。マンガナイト内では「STUDIOVOICE」のコラムなど書き物担当になっています。マンガ以外の趣味は、読書に舞台鑑賞。最近はサイクリングも。

コロコロ創刊伝説

昔好きだったマンガ、今ではあまり思い出されることはないけど、マンガ家自身にとっては命を懸けた分身であることがひしひしと感じられる作品。「つるピカハゲ丸」でヒットを飛ばした作者自身の半生を追ってゆく形で、熱さに溢れるコロコロコミックの創刊秘話がひもとかれてゆく。いま栄光は過去のものとなり、年齢と借金を重ね、疲れきった作者。そんな生みの親を励ますように、かつてのヒットキャラクターが変わらない姿で現れる。その都度「オレから漫画をとったらなにが残るー!!!」とペンを握り直す作者の姿はハゲ丸くんであり、轟一番そのもので、武田景虎が憑依している。昔懐かしいドタドタのギャグマンガタッチで描かれるハードノックライフのギャップに引きこまれ、一気に読了してしまった。人生いつだってこれからだ、という気持ちになる。

文=本多正徳
1980年、広島生まれ。専門出版社勤務。マンガナイトではすっかりイジラれ担当になってしまった最近(!?)。男子校の寮でマンガの面白さに目覚めました。好きなジャンルはガロ系とヘタウマ系。藤子不二雄やつげ義春、水木しげるなどの古典的ナンバーも得意。心のマンガは『ダンドリくん(泉昌之)』『サルでも描けるまんが教室(相原コージ、竹熊健太郎)』でしょうか… ほかの趣味は読書、囲碁・将棋と悲しいほどのインドア派。ウェブサイト/グッズ制作を担当。

「ガンダム」を創った男たち。

富野由悠季氏ら、「機動戦士ガンダム」シリーズを生み出した人々の姿を、基本的な事実を押さえてドキュメンタリー風に描いたギャグマンガ。「新しいアニメを生み出す」という富野氏、アニメーターの安彦良和氏らの熱量が、マンガ家・大和田秀樹氏の熱量で増幅され、当時の熱気や可能性が無限に膨らんで伝わってくる。ギャグマンガ的表現や誇張もあるだろうが、「新しい何かを作り出すときのパワーとはこういうもの」と納得させてくれた。アニメから映画への展開、ファンの巻き込み、そして目の肥えたオトナを満足させる表現手法の革新――今のアニメ業界がやっていることの原点を垣間見た。玩具メーカーや映画会社が関係してくるからこその生々しいお金の話も含めて、だ。史実をもとに物語を展開する大河ドラマ的面白さが味わえる。多くのアニメが放映されては消費されていく今こそ、新しいことを進める覚悟と熱量を知るために必読のマンガではないだろうか。
ちなみに私自身は、当時の関係者による書籍であとからガンダムシリーズを知った人間だ。そんな私も改めて「この熱量で生み出されたアニメは一体どんなものか」と、見たくなった。特に映画版が気になる。ガンダムシリーズを良く知らない人こそ読むと新しい世界が開けそうだ。

文=bookish
1981年生まれ。「ドラえもん」「ブラック・ジャック」から「週刊少年ジャンプ」へと順当なまんが道を邁進。途中で「りぼん」「なかよし」「マーガレット」も加わりました。主食はいまでも少年マンガですが、おもしろければどんなジャンルも読むので常におもしろい作品を募集。歴史や壮大な物語をベースにしたマンガが好み。マンガ評論を勉強中。マンガナイト内では「STUDIOVOICE」のコラムなど書き物担当になっています。マンガ以外の趣味は、読書に舞台鑑賞。最近はサイクリングも。

腐女子のつづ井さん

 4年前に初めて生の腐女子に出会い、自分たち男同士の絡みになぜそこまで興奮するんだ? と不可解でしょうがなかった。この「腐女子のつづ井さん」に出会い、得体のしれなかった彼女らをずっと身近に感じている自分がいる。
 本作は作者のつづ井さんが、ボーイズラブ(BL)好きであることを隠して生活している仲間たちとの日常を描くギャグエッセイだ。
 まったくピンとこない恋愛ソングを、好きな男の子キャラ同士に置き換えることで「わかる」と涙したり。BLに浸りすぎて「男性といい感じになっても『私チ●コついていなけどいいの!?』と本気で思うようになった」と仲間同士でうなずき合ったり。作者は自分たちの思考や言動が世間からずれていることを自覚しながら、ときに自虐的に、ときに幸せそうに、鉛筆画のようなゆるーい画風で面白おかしく描いてくれる。
 つづ井さんたちの日常に笑う一方、「わかる」と共感してしまうところも多い。恋愛ソングへの解釈を深めるために、彼女らは歌詞をわざわざワードに打ち込んでプリントアウトし、夜中に熱く議論し、生まれた発見をメモしていく。一瞬「何やってんだ自分ら」という空気が流れながらも、「こういうムダなことする時間を大事にしたいよね」と微笑み合う。
 常識からすると引かれるのでは、と隠している趣味や性嗜好は多かれ少なかれみんな持っているものだ。それを表に出せない苦しみだけではなく、素直に楽しんでいるときの幸せ、そして良き理解者がいたときの喜びが、つづ井さんたちの日常には溢れている。

文=黒木貴啓
1988年生、鹿児島出身、東京在住のライター。マンガナイトでは執筆を担当してます。ロックンロール、もしくは仮面が題材の漫画を収集&研究中。大橋裕之「音楽と漫画」、榎屋克優「日々ロック」、そして何よりハロルド作石「BECK」……日本人が成したことないロックの魔法を漫画のキャラが見せてくれるところに、希望を感じてしまいます。

わがままちえちゃん

ちえの双子の妹の「さほ」は、交通事故で亡くなった。さほが死んだのは自分のせいだと思っているちえは、自分にとって都合の良いさほの夢を何度も見るほど、自分を許してほしいと思っている。この漫画は、ちえの切実な願望、それに巻き込まれる人間たちとの出会いを通して、ちえの心の成長を描いている。
兄弟姉妹とは、同じ血肉を分け合った仲だが、実は儚く脆い関係性であり生涯永遠のライバルなのでは、と私は思う。恐らく兄弟姉妹がいる人は、一度くらい相手と比べられる恐怖や劣等感を感じたことがあるだろう。それらを、ちえという双子の姉の視点から、濁すことなくストレートに描ききっている。兄弟姉妹がいる人、比べられることに嫌悪感を抱いている人に是非読んでほしい一冊。

文=山口麻衣
1996年生、長野県出身。漫画のジャンルは特にこだわらずに読むが、中でも少女漫画をよく読む。少年漫画はバトル物でもスポーツ物でも、とにかく主人公が熱い性格なものが好き。「となりの怪物くん」「電撃デイジー」「ONE PIECE」「アイシールド21」は何度読み返したかわからない。マンガナイトに入り、読んだことのないジャンルの漫画をたくさん知り、漫画に対しての興味が尽きない毎日である。

おふろどうぞ

人の見たくない面をえぐって表に出してみせことで定評のあるマンガ家、渡辺ペコさんの短編集。お風呂をテーマにしたもので、表紙や帯の文句マから「お風呂でくつろぎ日々のいやなことを忘れて気分転換する内容?」と思って読んだら、いい意味で裏切られた。「お風呂」で心の鎧を脱ぐことで、気分転換するどころか、緩んだ心の隙間から、人間の抱える業、どろどろした思いや思わぬ本音がオープンになり、登場人物らは(そして読者も)それまで目を背けていた事実と向き合わざるをえなくなる。渡辺さん独特の、繊細な線で描かれると、あたかも登場人物らに起こったことが自分にも起こりそうで、お風呂という場と向き合うのに戸惑うかもしれない。それでもお風呂に惹かれるのは、自分ともしくは一緒に入る人との距離が縮まるから。現実人は社会の様々な場面で、その場面に合う役割を求められ、自然と心の鎧は分厚くならざるをえない。少し怖いけれども、心の鎧を脱ぎ捨ててみたい人こそ、このマンガを読んでお風呂に入るべきでしょう。

文=bookish
1981年生まれ。「ドラえもん」「ブラック・ジャック」から「週刊少年ジャンプ」へと順当なまんが道を邁進。途中で「りぼん」「なかよし」「マーガレット」も加わりました。主食はいまでも少年マンガですが、おもしろければどんなジャンルも読むので常におもしろい作品を募集。歴史や壮大な物語をベースにしたマンガが好み。マンガ評論を勉強中。マンガナイト内では「STUDIOVOICE」のコラムなど書き物担当になっています。マンガ以外の趣味は、読書に舞台鑑賞。最近はサイクリングも。

カナリアたちの舟

「宇宙人が襲来し、突然謎の文明に囲まれた異世界で目を覚ました女子高生のユリ。そこで唯一出会った男性・千宙(ちひろ)と一緒に、その世界をサバイバルしていくことに…」というあらすじだけではこの作品の独特な良さが伝わりきらない~と紹介に迷う作品でした。アフタヌーンらしいSFマンガですが、サバイバル要素があり、ボーイミーツガール的でもあり、主人公の成長ものでもあり…いろいろな角度から楽しめる作品であることは間違いないです。
6話完結の作品で、これが初単行本とは信じられないほど、無駄な回がなくきれいにまとめられています。そして良い意味でも悪い意味でももやもやする読後感です。不条理な目に合って、自分の力でどうすることもできない状況に陥ったとき、自分ならどうするだろうと思わず考えてしまいました。ユリのとった行動が正しいかはわからない。けれども正解がわからなくても走る姿は、とても愛おしくかっこよくも思いました。
ただし決してハッピーエンドではない終わり方。「ユリが『あの景色』を見ていたら違ったラストだったのでは」とおそらく全ての読者に思わせただろう作者の力量がすばらしいです。セリフやシーンの一つひとつがあとになって意味を増す、何度でも読み返したくなる作品でした。

文=松尾奈々絵
1992年生まれ。少女漫画から青年漫画まで好きです。趣味は野球観戦。