腐女子のつづ井さん

 4年前に初めて生の腐女子に出会い、自分たち男同士の絡みになぜそこまで興奮するんだ? と不可解でしょうがなかった。この「腐女子のつづ井さん」に出会い、得体のしれなかった彼女らをずっと身近に感じている自分がいる。
 本作は作者のつづ井さんが、ボーイズラブ(BL)好きであることを隠して生活している仲間たちとの日常を描くギャグエッセイだ。
 まったくピンとこない恋愛ソングを、好きな男の子キャラ同士に置き換えることで「わかる」と涙したり。BLに浸りすぎて「男性といい感じになっても『私チ●コついていなけどいいの!?』と本気で思うようになった」と仲間同士でうなずき合ったり。作者は自分たちの思考や言動が世間からずれていることを自覚しながら、ときに自虐的に、ときに幸せそうに、鉛筆画のようなゆるーい画風で面白おかしく描いてくれる。
 つづ井さんたちの日常に笑う一方、「わかる」と共感してしまうところも多い。恋愛ソングへの解釈を深めるために、彼女らは歌詞をわざわざワードに打ち込んでプリントアウトし、夜中に熱く議論し、生まれた発見をメモしていく。一瞬「何やってんだ自分ら」という空気が流れながらも、「こういうムダなことする時間を大事にしたいよね」と微笑み合う。
 常識からすると引かれるのでは、と隠している趣味や性嗜好は多かれ少なかれみんな持っているものだ。それを表に出せない苦しみだけではなく、素直に楽しんでいるときの幸せ、そして良き理解者がいたときの喜びが、つづ井さんたちの日常には溢れている。

文=黒木貴啓
1988年生、鹿児島出身、東京在住のライター。マンガナイトでは執筆を担当してます。ロックンロール、もしくは仮面が題材の漫画を収集&研究中。大橋裕之「音楽と漫画」、榎屋克優「日々ロック」、そして何よりハロルド作石「BECK」……日本人が成したことないロックの魔法を漫画のキャラが見せてくれるところに、希望を感じてしまいます。