僕が私になるために

性別違和(性同一性障害)を有する作者が、「身体的」にも「法律的」にも女性になる過程を描いた作品。読めてよかった。作者は性別適合手術(かつては性転換手術と呼んだ)を受けにタイに行くのだが、そこでの出来事は想像の域を超えている。手術って結局何をどうするの?という疑問にも具体的すぎるほど具体的に答えてくれ(この件を平常心で読める男性はいないだろう)、手術前後に作者が吐露する孤独と不安は胸に突き刺さる。手術を終えて日本に帰ってからは法律上も女性となるべく奮闘し、最後は裁判所にも赴く。まさに当事者だからこそ描けた作品。
このように書くと重苦しい作品のようだが、作者の語り方が絶妙。深刻なテーマを軽やかに包み込んで読者に提示してくれる。タイのナースの底抜けの明るさには思わず笑ってしまうこと間違いなし。時には凹みながらも前向きに生きる作者の姿勢が愛おしい。
性の多様性について様々な意見が飛び交う昨今、当事者の具体的な経験を知るという意味でまず手に取ってほしい一冊。

文=青柳拓真
1992年生。10代の多くをシンガポールで過ごす。何度も読み返してきた漫画は「ジョジョの奇妙な冒険」、「鈴木先生」、「それでも町は廻っている」、「三月のライオン」、「魔人探偵脳噛ネウロ」など。漫画の面白さって何なんだろう、「漫画」ってどう定義できるんだろう…とか色んな作品を読んで考えるのが楽しい。オールラウンドなマンガ読みを目指して最近は恐る恐る少女漫画に挑戦中。